僕のソーセージを食べてくれないか

そうです。私が下品なおじさんです。

エアコンの調子がどうこうよりもお前の笑顔にもう会いたくないという話。

現在我が家には猫が7匹いる。

 

そのため家の中を舞っている猫毛の量は、猫を1匹飼っている人と比べて単純計算で7倍になる。掃除機をかけると集塵パックはすぐ猫の毛でパンパンになるし、洗濯機の埃集めネットも同様であり、いくら掃除をしてもその傍から汚れていくし、僕の靴下や上着にオシッコをするやつもいる。

 

それだけ猫が多いと、生活にも影響を及ぼしてくる。

その影響とは、

 

・服に猫の毛がついてしまう

・服に穴が空く

・服がオシッコ臭くなる

 

などで、それらはどう考えても「お前も私たちと同じように裸で過ごすべきだ」という無言の圧力として受け取れるものでもある。

 

そんな圧力を毎日のようにかけてきているのだけれど、今のところ僕はまだ猫達の圧力には屈さず、しかし最低限の理解を示しておかなければもっと酷い事になるのは目に見えているので、わずかに室内でのみ裸で過ごしているのだけれど、それも最近寒さで厳しくなってきている。

 

という訳で、健康はお金では買えないという祖母の遺言を守るため、風邪などをこじらせる前に電気代を顧みずエアコンを作動させようとしたのだけれど、これがどうにもよろしくない。

 

7匹も猫がいるとエアコンのような空気を循環させる機器にも、とても負担がかかるのだ。

 

7匹分の毛がフィルターにまとわりつき、そのせいでエアコン自体がダニやカビの温床となり、その風が室内を循環し、また毛とともにフィルターに吸い込まれるという負の連鎖が我が家内で繰り広げられてしまうのだ。

 

 その結果、エアコンを作動させる度に妻の鼻の調子が悪くなってしまうのだ。

 

しかしエアコンを付けない状態を続けると、今度は寒さで僕の調子が悪くなってしまう。

 

ではどうしたものかと協議したところ、エアコンのクリーニングをすればよいのではないか、という着地点に落ち着いた。

 

早速調べてみようといきり立ちインターネットで検索すると、なるほど色んな会社が出てくる。

それぞれに値段が違い、なぜ違うか、なにが違うかと、これでもかとアピールポイントを訴求してくるではないか。

 

しかし僕はエアコン清掃の内情や掃除屋さんの実情、もしくはそれに類する情報に疎く、一体何がいいのかが分からないため比較サイトを使ってみようということになった。

 

そのサイトを眺めていると、各社の代表らしき人達の顔写真がズラリと並んでいて、さながら風俗の指名パネルのようであった。

 

やはり顔が見える事で安心する人が多いのだろう。殆どの会社が、モザイクや目隠し線を入れることなく素顔を晒していた。デラペッピン以上にあけっぴろげである。

 

そんなサイトに自宅の住所や希望日時を記入して調べてみると、どうやらいくつかの会社が直近の週末には対応してくれるとのことだった。その中でも比較的安価に作業していただける会社があったので、清掃をお願いした次第なのだけれど、当日来てもらった作業員はわざわざ京都から来たという。

 

作業はとても手早く気遣いの出来る方だったのでとても満足し、その日からエアコンを24時間付けっぱなしにしている。

クリーニングのおかげでエアコンは何とも快調に動いており、妻の鼻の調子も僕の身体の調子もとても良いので感謝感謝の日々を送っている。

 

しかしその日以降今日に至るまで、ずっと悩まされていることがある。

 

うちにエアコンクリーニングをしにきた男が、毎日僕に向かって笑顔を投げかけてくるのだ。

 

その笑顔の正体をあかしておくと、もちろん本人ではなくインターネットにおける広告写真であるのだが、いかんせん先日会ったばかりの彼が画面の向こうからずっと僕に笑いかけてくるのはあまり気持ちがいいものではない。

 

朝パソコンを立ち上げてインターネットを開くと、画面のいたるところに彼の笑顔が見える。

 

「こんにちわ!お宅のエアコン、調子はどうですか?!」

 

家に来た時にはあれほど有り難かった笑顔も、見続けるとだんだん馴れ馴れしく思えてくるし、うっとおしくもなる。 

 

しかしそんな僕の感情とは裏腹に、色んなサイトを覗く度に彼が僕に笑顔を向けてくるのだ。

 

誰かのブログを読もうとしても

「こんにちは!お宅のエアコン、調子はどうですか?!」

 

エロいサイトをみようとしても

「こんにちは!お宅のエアコン、調子はどうですか?!」

 

COOKPADで晩御飯を調べようとしても

「こんにちは!お宅のエアコン、調子はどうですか?!」

 

といったような調子で毎日どころか毎分毎秒の勢いで、挨拶を振り撒きながら我が家のエアコンの調子を伺ってくる。

 

おはようございます。きちんと調子よく動いていますよ。本当にありがとうございました。といくら言ってもその声は相手に届かない。

 

 エロい文章が横にあろうが美味しそうな料理が横に鎮座していようが、おかまいなしに満面の笑みでこんにちは!と投げ掛けてくるあの表情はもはやサイコパスのそれである。

 

見ないように見ないようにと意識しても目に入ってしまうので、文章に興奮しているのか作業員に興奮しているのか段々と分からなくなっていき、僕のパソコンに向かう気力は衰退の一途をたどっている。

 

そんな日常を過ごしているのだけれど、3日ほど前に今度は特別別の事件が起こった。

 

これもまた猫に関する事であるのだが、先に概要を書くと、猫が延長コードにオシッコをしてHDDレコーダーが壊れた、という事件である。

 

万が一の事を考えて一応コンセントの根元にはカバーをしているのだけれど、延長コードにオシッコをかけられてしまい、HDDレコーダーの線がショートしてしまったのだ。

 

家に帰るとまず全裸になってから猫のトイレ掃除をすることが日課なのだけれど、さすがに一糸まとわぬ生まれたままの姿で床と延長コードについたオシッコを拭き取っていると、無性に悲しくなってくる。

 

今はもう動かない、僕のレコーダー。平井堅がそんな僕の姿をみたら、いぬの鳴き真似をして笑わせようとしてくれるだろうか。

 

猫を飼っている人は知っているだろうけれど、猫のオシッコは時間が経てば経つほど臭くなる。「もう、くさいなあ」から「うわ!くっさ!」となり、酷くなると嗅いだ瞬間に言葉ではなく「ヴェンッッッ!!!」という叫びのようなものが出るのだ。

 

まかり間違ってその臭いを直接嗅いでしまうと鼻の穴から入った臭いがそのまま脳みそに直撃し、後頭部をバールのようなもので殴られた様なショックに襲われる。

 

なので怪しい場所がある時は、中学の理科で習ったであろう劇薬を嗅ぐ時にやる、手で仰いで臭いを確かめる動作をすることをお奨めする。

 

幸いにも今回は発見が早く「もう、くさいなあ」程度の臭いだったのだけれど、なにぶん被害額が大きすぎたが故にショックも甚大だった。

 

HDDレコーダーという文明機器は、新たに購入しようと思うと最低でも3〜4万円かかってしまう様な高級な機器である。 僕が全身全霊を込めて路上に落ちている小銭をひろっても3ヶ月はゆうにかかる金額だろう。

 

例えば猫達がそれくらい賄えるようにどこかで外貨を稼いでくるくらいの甲斐性があるのならば、僕は黙って家政婦としての職務を全うし文句も垂れずに「ヴェンッッッ!!!」をするのだけれどそうではない。

 

猫達は無駄飯を食い無駄な作業を増やし 無駄な出費と無駄な「ヴェンッッッ!!!」を生み出すだけなのだ。

 

では猫を飼う事にメリットがないのかといえば、あるにはある。

それは「可愛い」の一言に集約され、逆にいえばそれ以外にメリットはない。

 

だからといって今更猫のいない生活など耐えられる訳もなく、毎日存分にそのメリットを享受しているのだけれど、やはり猫が様々な場所をうろついているのでどうにも家が手狭に感じるようになってきている。

 

なので最近は暇を見つけては色々な物件を見ているのだけれど、なかなか良い物件に巡り会えない。

 

しかしその代わりにまったく関係のないところで幸運に恵まれる事になった。

 

それはサイトを見ている時に「こんにちは!お宅のエアコン、調子はどうですか」と度々聞いてくるサイコパスの顔を見ないで済むようになった事だ。

 

そのかわり、今のパソコン画面は驚くほどの数の平面図と物件写真で埋め尽くされている。

 

しかしそれでも以前の状況に比べれば、すこぶる快適なネット環境である。

 

なるほど見るサイトによって広告が変わるのかと僕は深く納得したのだけれど、同時に1つのアイデアを思いついた。

 

そのアイデアというのは、AVの紹介サイトなどをしばらく見続ければ色んな女優さんが僕の事を見てくれるのではないか、というものだ。

 

思いついたが吉日とは良く言ったもので、僕は早速色々なサイトを巡りながら、平面図や家屋写真が徐々に女優さん達に変化していくことに期待に胸を膨らませてパソコンを操作していたのだけれど、ある事実に気がついてしまった。

 

それならば、別にアダルトサイトを開いていればいいだけではないか、と。

 

しかしよくよく考えると、つい先日自分の想像力を育てる為に動画類は見ないという決意をしたばかりである。

 

その矢先にそんな事をしていては、軟弱な精神しか持ち得ない豚野郎、みみず、ドブの臭いなどと罵られてしまうだろうし、そんな状態では一家の大黒柱としての沽券に関わってしまう。

 

なので僕はマウスをクリックしようとする右手を左手でなんとか制し、事なきをえた。 だから僕のパソコンに映し出される広告は、未だ平面図と物件写真に埋め尽くされている。

 

そんな僕は今、新しいハードディスクレコーダーを探す旅に出ているのだけれど、なかなかいいものが見当たらない。

 

そんなおり、息抜きがてらにツイッターでも見ようかとスマホに目をやると、メールが届いていた。送り主を確認すると例のエアコンクリーニング比較サイトからである。

 

「申し訳ありませんが、そろそろ口コミをしてもらえませんか」

 

そう言えば忘れていた。クリーニング業者が帰り際に「できれば口コミをお願いいたします」と言っていたことを。インターネットを使った集客には口コミがとても重要らしい。

 

さっきも書いたけれど、その業者は京都からきていた。そして僕と妻は、京都人に会ったらいつも同じ質問をするようにしている。

 

その質問とは「京都人は本当にぶぶ漬けを出すのですか」というものなのだけれども、これまで聞いてきた人たちのなかでは誰もぶぶ漬けを出したことがある人はいなかったし、食べたことがある人もいなかった。

 

この質問に答えてもらう度、僕と妻は顔を見合わせ、京都の人は幻想のなかに生きているのだなあ、と深く頷きあうのだけれど、今回も結果的にまた同じ頷きをすることになった。

 

とりあえず比較サイトにアクセスし「せっかくぶぶ漬けを出そうとしたのに断られましたが、それ以外はとても素敵な業者さんでした」と口コミを残しておいた。

 

またしばらくネットをしていると今度は「特別サービスがあります」とまた比較サイトからメールが来たので再びサイトを訪れた。 口コミしていただいたので、もし何かあったときに十万円まで保証します!というサービスを知らせる内容だった。

 

なるほど、こうやってアフターサービスをすることで口コミを増やし、また囲い込みにもなるのか、さすが勉強になるなぁと思っていると、突然すさまじい尿意を覚えた。僕は股間を押さえながらブラウザを閉じ、パソコンの前から離れてトイレへと向かった。

 

ナイアガラの滝ですら引くほどの勢いで放尿を終えたあと、煙草を吸って一息つき、優雅にコーヒーを飲んだ。歯の黄ばみが気になるけれど、煙草とコーヒーは辞められない。一息ついた後、またパソコンに向かい、インターネットの世界にダイブした。

 

ヨドバシをみるか価格ドットコムをみるかで迷いながら、検索窓にとりあえず「HDDレコーダー 安い おすすめ」と入れてエンターボタンを押すと、次に開いた画面にサイコパスの笑顔が写っていた。

 

「こんにちは!お宅のエアコン、調子はどうですか?!」 

 

見慣れた顔がこちらを見ながら、ニコニコと笑っていた。

 

きっと口コミを書くこととアフターサービスの確認のために、何度もあのサイトを訪れてしまったからであろう。

 

見慣れた笑顔に向かって愛想笑いをしながら、

 

「二度とあのサイトは使わないでおこう」

 

そう誓った。

 

そして僕はそっと表示されたブラウザを閉じ、ブログのページを立ち上げ、今この文章を書いている。

 

これを読んでいるあなた、お宅のエアコンの調子はどうですか?