僕のソーセージを食べてくれないか

そうです。私が下品なおじさんです。

俺とお前は魂斗羅スピリッツでいうビルとランス。

ここ最近ずっと、スーパーファミコンミニに悩まされている。

 

発売される前は予約するかどうかで悩み(結局予約しなかった)、発売直後はどうやったら手に入るかで悩み(結局ネットで見比べただけ)、発売からしばらくしてからは転売の価格が高いことに悩んだ(結局文句を言っていただけ)。

 

先日、最寄りのジョーシンに向かい、在庫があるかどうかを確認したら普通に購入可能でしかも今現在メルカリでの平均価格を下回る価格、いうなれば定価で販売していた。しかし僕はそこでも購入を見送った。

 

なぜならば、家のテレビの前には昔のスーパーファミコンが現役で鎮座している上に、スーパーファミコンミニに収録されているゲーム21本のうち、8本が手元にあるからだ。この「8/21」という数字は、購入に至らせるにはなかなかに難しいものである。

 

更に言えば、収録ゲームの中で手元にない他のゲームのうち、まったく興味がわかないゲームが6本ある。こうなると「14/21」、約数すれば「2/3」がどうでもいいということになり、この時点で僕はスーパーファミコンミニが欲しいというより、「1/3」の為にお金を払えるかどうか、という考えが頭の中を占拠するようになっていた。

 

そういった話を妻に相談すると「内蔵されているソフトが増やせない時点で私は買わない」という新しい見地を僕にあたえ、妻の視野の広さ、考えの深遠さに改めて感服した。

 

しかし一度欲しいと思ってしまうと、どれだけ理由を付けたとしてもなかなか諦めきれないのもこの世の理である。一度喉から出てしまった手は、初めてひな壇に登った若手芸人のように引っ込む事を知らないのだ。

 

そんな状態でスーパーファミコンミニを欲しいと思っている僕と、いやいや必要ないだろうと納得した僕が、いまなお毎日のように会議を開いている。

 

そしてその議題の焦点は、大体において魂斗羅スピリッツに辿り着く。

 

「するとなんですか、あんたはやっぱり魂斗羅スピリッツが出来なくてもいいっていうんですか。あんな楽しいゲーム、今までの人生でありましたか」

「その気持ちは存分に分かる。ただ、それを言えば魂斗羅だけに9000円近い金額を払うことになるではないか。であれば難波のスーパーポテトに行けばもっと安く手に入るのでは」

「おっとその言葉を待っていた。今調べるとスーパーポテトでは魂斗羅のカンパケは1万円オーバー、ソフトだけでも四千円を越える。そこに超魔界村スーパーメトロイドを合わせれば、もうスーパーファミコンミニが買えるではないか」

ぐぬぬ、しかしスーパーファミコンがあるにも関わらずミニを追加で買うとなると、ゲーム機本体が2台並びなんとも無駄に場所をつかってしまう。この狭い家では命取りになる。スペースの有効活用は夫婦の中でも最優先課題となっているのはあなたもご存知のはずだ」

「がはは!あなたは自分で自分の墓穴を掘ってばっかりだ。妻はそう言いながら衣服を着実に増やしているし、あなたは大量の漫画を買ってはごまかしごまかし過ごしているではないか。さらにいえば、その狭い家に猫が何匹いる。7匹だ!そして子猫と大きい猫がならんでおる姿を常々可愛いと仰っているであろう。それはスーパーファミコンでも同じこと、大きなスーファミと小さなスーファミが並んでいる姿を想像してみるがいい。さぞかし可愛いことだろう。なにがどうあろうとも『可愛いは正義』なのだ」

「ああ、ああ、大小二台のスーファミが並ぶ風景、確かに可愛い。ああ可愛い。大丈夫なのかな、増やしても大丈夫なのかな」

「ああ大丈夫さ。ほら、奥さんに言ってみな、ミニが欲しいって言ってみな。大小並んだ姿を見たくないかと言ってみな!」

 

そのような議論の後、妻に報告をし、返って来たのが以下の言葉だ。

 

「別に見たくない」

 

可愛いは正義ではなかった。

その否定の言葉に続いて、とても単純明快でしかも返答しづらい意見が提案された。

 

「っていうかそんなに欲しいんなら大きい方を捨てればいいじゃん。スペースも空くだろうし」

 

なんという単純明快かつ合理的な解決策だろう。大岡越前ですら、こんな見事な采配はできないはず。

 

しかし、しかしだ。

 

この妻の単純な解決策には、ある種の凶器(バールの様なもの)が孕まれているのだけれど、皆さんはお気づきでしょうか。

 

新しいものを手に入れるために、古いものを捨てる。

 

 それは一見真っ当な、しかも合理的な意見であるけれども、例えばこれを家族という枠組みで考えたならどうだろうか。

 

「新しい子どもが欲しいから、今いる子どもを捨てる」というのと同じではないか。そんなものは狂気の沙汰である。

 

そして僕はその旨を妻に伝え、スーパーファミコンスーパーファミコンミニを擬人化した上で情に訴えかけようと四苦八苦したのであるけれど、どうにも僕の方が分が悪いという今の状況を覆す事ができなかった。また精神をバールのようなもので殴られてしまった。

 

「 古い方も新しい方も、両方あったっていいじゃないか」

 

そう思いながら、しかし妻の言うこともまったく持って正論であると納得している自分もいる。

 

そう考えるに至り、やはり今あるこの子を大切にしよう、飽きたから新しい子が欲しいなんてスネ夫みたいな事はいわないでおこうと思い、僕はスーパーファミコン(大)のスイッチを入れた。

 

僕の事をこてんぱんにした妻は、座椅子に座りながらスマホをポチポチと弄っていた。きっとメルカリやフリルを見ているのだろう。好きなだけ服を買えばいいさ。それもどうせ猫達にぼろぼろにされるのさ。

 

子どものようにいじけながら、僕が筐体にさしたソフトは、かの名作「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」である。気持ちをリフレッシュするために最初から始めようと思い、名前を入力する。

 

いくつになっても、この時のドキドキは何物にも代え難い。

 

最近ではゲームをする際には自分の本名である「ペニ太郎」という名前を使っているのだけれど(文字制限の兼ね合いで大体はペニタロウorペニタロになってしまうけれど)、かつてはどんなゲームであっても、名前を付ける時には「ドラゴン」という名前を使っていた。

 

その由来はもちろん、聖闘士星矢の登場人物である紫龍と、ブルース・リー李小龍)である。

 

大方の少年達と同じように、小学生時代の僕にはこの2人が最大のヒーローだった。

 

紫龍の着ていた青銅聖衣(ブロンズクロス)の影響で母親が買ってきてくれる服に関しても緑がいいと言い張り、寝間着にはお願いして買ってもらった黄色いつなぎを着ていた。クッキーやらの丸い空き缶の蓋があればそれを盾に見立てて腕に装着して悦に浸っていたし、大人になった今でも剣や銃よりトンファーやヌンチャクの方が強いと思っている。

 

 これに対して「何をいうか世間知らずが」「やはり銃が一番強い」などと不要な争いを仕掛けてくる輩には、以下の動画をみていただきたい。

Real or Not?Bruce Lee/ブルース・リーのヌンチャク卓球 - YouTube

 

少なくとも銃や剣では球が破裂及び切断されてしまうので、卓球はできないだろう。だから卓球ができる分、ヌンチャクの方が上である。

こんな動画、合成ではないか。という返信は必要ない。そんな事は別に重要でもなんでもない。むしろこちらとしてもそれを疑いながら動画を貼付けているのだ。

 

それを承知で言いがかりをつけてくるような人間は、AVを見ながら「あれは本当は恋人同士のセックスではない」「あれは大学生ではない」「あれは人妻ではない」「あれは保育士ではない」「あれは看護婦ではない」「あれは本当は痴女ではない」「あれは中田氏ではない」「あれは素人ではない」「あれはS◯Dの社員ではない」「あれは坂口杏里ではない」等といい、それだけではあきたらず「あれは本当は時間が止まっていない」と、人の夢を打ち砕いておきながら他人を嘲笑するような人達なのだろう。

 

そんなやつらはピュアさや正義を装いながら、逆に心が濁っている不遜なやつらなのだ。やーい、お前の心!おっばけやーしーきー!

 

画面の中の人達はいつだってみんな大学生だしみんな人妻だしみんな恋人同士だしみんな看護婦だしみんな痴女だしみんな保育士だしみんな中田氏だしみんな素人だしみんな社員だしみんな杏里だし、あ、杏里は一人だ。

ついでにいえばもし例え本当にその中のいくつかが嘘だったとしても、あれだけ時間停止もののAVが出ているのだから、何本かは本当に時間が止まっているはずだ。

 

止まっているはずなのだ。

 

そのように素直に騙されている方が幸せなのだ。

 

そんな人達とは違っていつまでも幸せな嘘に騙され続けているピュアな僕は、紫龍の装着するクロスモチーフであり、ブルース・リーの漢字表記にも入っている龍、すなわちドラゴンにとても憧れていて、ゲームの主人公には決まってドラゴンと名前を付けていた。ピュア・ドラゴンだったのだ。

 

しかし成長とは酷なもので、小学校高学年になったとき、決定的な事件が起こる。

 

この事件には兄の友人が深く関わっている。兄が家にその友人を連れて来た事により、僕の中でドラゴンに対する扱いがミミズのように変わっていってしまったのだ。

 

その日、僕はファイナルファンタジー4をプレイしていた。

今でも忘れない、ちょうど暗黒騎士からパラディンへとジョブチェンジする、あのタイミングである。

 

暗黒騎士のドラゴンからパラディンのドラゴンへ。

 

龍騎士であるカインのほうがドラゴンに向いているのでは、という悩みがあったことは認める。しかしそれはそれとして別の問題なので仕方無く話を進めるが、このタイミングというのは戦えば戦うほどレベルが上がる、なんとも壮快なタイミングでもある。パラディンになったとたんにレベルが1に戻ってしまうからだ。

 

そんな一種の万能感につつまれるような楽しみを享受していたとき、兄と兄の友人が、僕のしているゲーム画面を覗き込んだ 。そして、兄の友人がこう言った。

 

「なあお前、なんで名前ドラゴンなん。めっちゃださいやん」

 

その言葉を聞きながら、僕は愕然とした。

 

(え?ドラゴンがださい?)

 

幾多のゲームで、自分の分身でもある主人公に「ドラゴン」と名付ける。それはすなわち僕がドラゴンをとてもかっこいいと思っているからこそしてきた事であり、しかもそのかっこよさは万国共通であると思っていた身には、兄の友人が言った言葉は驚くほどに衝撃だった。

 

(ちょっとまってくれよ、ドラゴンはださいのか?じゃあ僕が鞄に付けている、この龍と剣が合わさってしかも輝かしい宝石がついているキーホルダーだってダサいというのか?いやいや、修学旅行においてこれは木刀と並んで最も人気の品だぞ、僕は両方買ったぞ!帰ってからオカンにはしこたま怒られたけどな!そんな苦しみを共に乗り越えたドラゴンがダサいだと!そういうお前の顔はどんな顔をしているのだ、どうせエクスカリバーがささっている岩みたいな顔をしてるんだろう!)

 

と思い、僕は振り返った。

 

そこには当時大流行していたハンテンのTシャツの上に、さらにこれもビックリするくらい流行っていたバッドボーイのロゴが胸にサンサンと煌めくナイロンパーカーにデニムを合わせ、もうこれ以上普及する隙間が無いのではと思われたくらいに誰もが身につけていたdj hondaのキャップを目深にかぶったファッションエリートが立っていた。

 

カッコいい。これがカッコいいということか。

 

そんなファッションリーダーがはなった「ダサい」という一言は、僕を失意のどん底に落とした。

 

そんな僕が受けた衝撃を尻目に、延々とレベルが上がり続けるパラディン・ドラゴン。

しかしそのレベルアップの音に反比例するように、脳内の格好良さパラメータが下がっていくパラディン・ドラゴン。

 

兄とその友人は、そのまま外に遊びにいってしまった。きっと彼らはブランコを使った靴飛ばしでどこまで靴を飛ばせるかだとか、のぼり棒にどの角度で股間をこすりつけると気持ちいいのだとかの子どもじみた遊びはしないのだろう。

 

ファッションエリートが集まる尼崎のゲーセン、カウンタックディアブロに行って台の上に100円玉や50円玉を積むのだろう。カウンタックの事を尼カンというのだろう。

 

そんなきらびやかな外の世界とは裏腹に、僕以外誰もいない部屋の中ではレベルアップの音だけが鳴り響いていた。僕はレベルのあがり続けるドラゴンを見つめながら、ゲームの電源を落とした。そのまま鞄に付けていたキーホルダーをはずしに行き、机の引き出しの中に入れた。窓際に立てかけていた木刀を、玄関の傘立ての中に紛れ込ませた。

 

切り忘れていたテレビの主電源スイッチを切りに向かうと、真っ暗になったブラウン管の画面に、どう見てもぶさいくな小学6年生が写っていた。ああ、僕もかっこ良くなりたい。dj hondaの帽子が似合う男になりたい。そんな思いとともに、僕はドラゴンの名前を封印した。

 

話が横、もしくは後ろにそれてしまった。

 

そんな僕が往年の名作、ゼルダの伝説に名前をつけていると、急に画面が暗くなった。かつてのように自発的に切ったのではない。突然画面が真っ暗になってしまったのだ。

 

インターネットで検索してみると、どうやら接点が悪くなっているようだった。接点の悪さの解消方法といえば接続部分フーフーしか知らないのだけれど、何度もそれを繰り返してもなかなかつかない。試しに別のソフト、スーパーマリオワールドをさしてみると、これは普通に動作できる。

 

ではどうするのがいいのだと更に調べると、接点復活剤なる液体があるらしい。何だこの「美女の聖水」に匹敵する様な魅力的な液体の名前は!と興奮しながら調べたのだけれど、どうやらそのような液体がホームセンターなどに売っているという。

 

しかし空しさを埋めるためにはじめたゲームの為に、この寒空の元ホームセンターに向かって行かなければならないのか、思うと、どうにも腰が重たい。まあ、別にどうでもいいか。そんな気持ちになり、家を出る事すら諦めた。

 

テレビの前で真っ暗な画面を見つめながら肩を落としていると、その肩に優しく手を置く人間がいた。

 

その手の持ち主は妻だった。

 

「これ、なんやと思う?」

 

そう言いながら、彼女は手にもってスマホの画面を僕に見せてきた。

 

(僕なんか変なメール送ったんかな?!?もしかしてアダルトマンガサイトの閲覧履歴がばれたか?いや、でもあれはじつは)

 

なんて事を考えながら、恐る恐るその画面を見てみると、

 

『商品を発送しました』

 

という文字が見えた。

 

「そんな欲がってんのやからスーパーファミコンミニ、買ってあげたで。中古やて書いてたから新品や無くてごめんやねんけど、殆ど使ってないていうてはったし。クリスマスプレゼントな」

 

そう言いながら笑う妻の笑顔は、スーファミの電源ランプよりも輝いて見えた。

 

「マジで!!!!!!!!ありがとう!!!!!!!めっちゃ嬉しいんやけどおおお!!!!」

 

僕はそう言いながら、嬉しさを最大限表現しようと思って服を脱いだ。

 

圧倒的感謝。際限なき喜び。溢れ出す慈愛。

 

そのままの勢いで、これならば今日、久しぶりに伝説の勇者になれるかもしれないと思い、股間についているカセットを妻のスロットに挿入しようとしたのだけれど、フーフーされることもなく電源がつく事もなかったのは、また別の物語だ。

 

でもな、俺とお前はこれから先もずっと戦友、ビル・ランザーとランス・ビーンなんだぜ!

 

というわけで、明日にはスーパーファミコンミニが届く!

 

うっふふうう!!!