僕のソーセージを食べてくれないか

そうです。私が下品なおじさんです。

「陰毛がサラサラやとモテるんやで」と浮浪者は言った。

婚活のパーティーなどにおいて、男は自己紹介プレートに年収をかく欄があって女性にはない、という話を聞いたことがある。そして最近また別の場所から、男は年収、女は得意料理を書くこともある、というのを聞いた。

 

だからといって、僕は別にそれが男女差別だとか不条理だとかとわめきたい訳ではない。むしろ僕がこの話を聞いて思ったのは、参加する人達はもっと自分勝手に書き足せばいいのに、という一点のみである。

 

僕が中学生のとき、校内では上履きを履く、というルールがあった。その上履きは学校指定のものであり学年毎に色は違っていたのだけれど、それ以外に違いはなくみんな同じ物を履いていた。

 

もちろん名前を書くことも定められているのだけれど、この時期の子供たちは自分の持ち物に名前を書くことに抵抗がある年代でもある。

 

その抵抗の元は大体が中学に入る直前にある小学校最後の思い出、修学旅行における風呂場での下着忘れである。

 

翌日の全体朝礼での「◯◯!風呂場に下着があったので取りにきなさい!」という、優しさという名の公開処刑は、誰もが通過する儀礼であろう。

 

そして中学生であれば殆どの人間がその優しさの犠牲者もしくは閲覧者になっているからして「自分の持ち物には名前を書かない」という誓いを立てているのである。優しさは時に人の心をも殺すのだ。

 

しかし持ち物に名前を書かないとなると、必然的に学年集会やクラス単位での移動になった際、どれが自分の上履きなのか分からなくなることが多発する。

 

なので各々上履きに名前を書くのではなく自分にしか分からない目印をつけたりするようになるのだ。

 

☆や♡マーク、それに類する分かりやすい可愛い物から米印という無骨な物。また仲の良いグループは共通のマークを上履きに書くことで、その集団の一員であることを提示していたりもした。

 

ただこういったものは、過剰へ過剰へと流れていくのが必然である。シンナーでは満足出来ずに合法ドラッグに、もっと快楽を求めようとコカインへと至ってしまうように、上履きに対する落書きの上書きは精神的快楽をもたらすのだろう。

 

マークだけでは満足出来なくなった人達が、段々と文章を書く様になっていった。

 

彼ら、彼女らの上履きには記号ではあきたらず「俺の上履き」や「誰の物でもない」「布施明Love」といったような自分の名前を出さずに自分の所有をアピールする言葉が散りばめられた。

 

さらにそれが加速し「一生守る」「純愛」と言ったいきなりの誓いがあったと思えば、「3代目暴走天使」「初代パタリロ」や「喧嘩上等」「君は薔薇より美しい」といったようなヤンキー・暴走族文化に憧れたような文字が並び、また別の集団の上履きには「人生はかけ算だ。君がゼロなら意味がない」といったような326の詩をパクったような文章が書かれていたりもしたし、なんなら上履きに「326」と書いている人もいた。

 

今だから言うけれど、お前の名前は森岡だ。

 

ただ僕はと言えばそれらを見ていただけであり、まったく落書きという物をしなかった。というか、上履きに何かを書くこと自体に意味を見いだせなかった。

 

それだけ皆が落書きをしていたので無地の方が少なかったのと、一度も洗わなかったので汚れの度合いが他の上履きよりも酷く、その黒ずみと匂いだけで自分のものが分かったからというのも、落書きをしなかった理由である。彼らからすればきっとゼロ以下、かける価値すらない存在だったのだろう。パクった所でマジで臭かったし。人生をかけるより漂白剤をかけたいくらいのものだった。

 

かといって学校がその過剰な落書きを制限しなかったわけではない。先生方は「余計なことは書くな、名前だけをかけ」と口を酸っぱくして言っていたのだけれど、いつの時代にも法の穴をかいくぐろうとする奴はいて、1人の人間が極太ゴシックで上履き全体に自分の名字を書き「名前を大きく書いただけです」と言ったあたりからその制限も緩くなりだした。

 

落書きは加速度的に増えていき、ある決定が下されるまでに学生たちの上履きは森の貴婦人と呼ばれるオカピの模様のように複雑な柄になっていた。

 

その決定とは上履きそのものの撤廃である。

 

撤廃となった理由は、上履きに履き替えたあとにロッカーに置かれていた自前の靴の盗難被害が増加したからである。

 

奇しくもスニーカー狩りが流行った時代であり、我が中学校でもスニーカーが取られる人が多数いた。その犯罪行為が上履きの過剰装飾を駆逐したのはなんとも皮肉なものだ。というか、ナイキであれば盗まれる、というのも異常だった気がする。

 

話を戻すがそのように婚活に置けるネームプレートも、個性を全面に出してみてもいいのではないか、と思う次第である。

 

男性が名前と年収、年齢しか書けないのであれば、名前を極小さく書き、空白部分に個性を光らせる。

 

「森岡 29歳 年収:250万 ※胸の真ん中にホクロがあって遠くから見ると乳首が3つに見える」

 

「早乙女 33歳 年収:330万 ※耳の後ろから老婆の匂いがする」

 

「木村 45歳 年収:1,000万 ※犬と暮らしているが何もしていないのに犬が股間に顔を埋める」

 

みたいなことを書いておけば自ずと会話が広がり、またお金目当てではない人と繋がれるのではないか。

 

森岡さんなら「え、乳首が3つに見えるって素敵ですね。今度、私の友達と一緒にないとプールに行きませんか?」みたいに思わぬ誘いがくるかもしれないし、その友達にも笑いを提供出来るかもしれない。その友達が火のついた煙草を押し付けてきて「これでケンシロウになれましたね」なんて笑顔で言ってくればもうそれは世紀末。世も末。広末。

 

早乙女さんなら「あー、ワタシおばあちゃん子だったんです。1回嗅がせてもらっていいですか?あ、ホントにおばあちゃんの匂いだ!」と言われ、そのままベッドイン出来るかもしれない。きんたまの袋を触られながら「おばあちゃんのほっぺたもこれくらいしわしわで柔らかかった」なんて笑顔で言われたら即昇天。

 

木村さんはもう「犬が嗅ぎたくなる股間ってどんなのですか」と女性たちが前に行列を作って股間を嗅ぎにくるのは間違いないしむしろ年収をみてそのまま舐めるかもしれないし、そのお返しに女性方の股間の匂いを嗅ぐことだってできるだろう。紳士たるもの、返礼を忘れてはいけないのはどの業界でも一緒である。無臭、チーズ、ザリガニ、たくあん。貴方の前には珍味の香りが並ぶだろう。年収も高いし。

 

では逆に女性側の個性の光らせ方は、と問われるだろうから、ここに記しておきたい。

 

以前までの僕であれば、もうエロいことを書くだけだ、と答えただろうけれど、このご時世ではそれはあまりにリスクが大きく、また僕自身も成長していることをアピールするために別のベクトルで返答したいと思う。

 

そもそも最近の男性が女性に対して何を求めているのか。

 

最初に書いたように、婚活サイトで得意料理を書かされる、というものからして、今の男性が求めるているものをサイト側がきちんと把握出来ていないことが手に取る様にわかる。

 

こういう人達は、未だに「毎朝僕にみそ汁を作ってくれないか」が最良のプロポーズだと信じているのだろう。

 

しかし、今のトレンドは「料理」ではなく「許容度」だと思われる。

 

許容度、と簡単にかいたが、これは「どれだけ自分の行動を受け入れてもらえるか」というものである。

 

基本的に男とというものは自分勝手である。

 

お金が入ったらまず自分が欲しい物を躊躇なく買いながら、デートの際に「お金がない」とのたまう。「食べたいもの何?」と聞いておきながら相手が幸せのパンケーキやスープデリと言おうものなら一気に機嫌が悪くなる。

 

なぜ機嫌が悪くなるのかと言えば、パンケーキよりもパンクラス、スープデリよりもソープとデリをこよなく愛するのが男というものだからだ。

 

パンケーキを食べにいく約束をなしにしてパンクラスを見に行くことを許してくれる女性や、一緒にスープを飲みにいくよりデリバリーで届くラブジュースを飲みたいと求めるのが男性なのだ。

 

一言で言えば、馬鹿なのである。

 

なので、女性はネームプレートに自分がどれだけの馬鹿を受容出来るかをかけばよいと思う。

 

「広末:どれだけキャンドルを家に持ち込んでも怒りません」

 

「 松井:掃除は私がしますが、尾行されるのは怖いので嫌です。」

 

八角:どんな行動でも許すと思いますが、報告だけはきちんとして欲しい」

 

キャンドルをどれだけ持ち込んでも怒らない女子であれば、コレクター趣味のある男性が声をかけるはずだし、尾行が怖いけど掃除を綺麗にしてくれる人であれば一日に5回くらい電話してあげたり居場所を教える為にGPS付きの携帯を持ったりすれば相手も安心してくれて家も綺麗になるのでもう男性は夢中になるはずで、報告だけすればいいのであればもうどんなことも気にしないでいい。何をしても可愛がってくれる人、というのは、全男性の憧れの的になるだろう。かわいがり最高。

 

このように、ネームプレートには自分の紹介だけではなく、素敵な未来も描きたいものである。

 

 

しかし上記の様に自分のことをきちんと理解出来ている人は結構少ない。

 

自分には何もない、ホクロもないしおばあちゃんの匂いもしない、犬も飼っていないしキャンドルも持っていない。ユーチューバーでもなければ理事長でもないという方もいるかもしれない。

 

そんな悩みを解消できるように、最後に僕が昔仲の良かった浮浪者に教えてもらった、男女に共通する「モテの極意」を伝えたいと思う。

 

 

「あんな、陰毛にリンスしたらな、風俗嬢がめっちゃ喜ぶねんで。あれでワシ、めっちゃモテてん」

 

ということである。

 

 

 

「ゲロ:35歳。年収240万円。陰毛がリンスでサラサラです」

 

 

これで僕もモテモテ。